ドラセクblog

神戸大学/ESS ドラマセクション/演劇

今日の練習

朝、いつもの様に目を覚ます。

ふと、枕の側に目をやると某人気小説家の長編小説がページを広げたままで置かれていた。

まだ鈍い頭を左右に振りながら昨夜のことを思い返してみる。

刹那、僕はその小説を読んでる間に寝てしまったのだと理解した。

と、同時に今日は朝から練習があると悟った。

練習とは無論、神戸大学ESSドラマセクションが5月上旬に予定している春公演に向けての練習のことである。

小説をそっと閉じ、ベッドの温もりを恋しく思いながら僕は脱衣場へ向かった。

シャワーを浴び、ドライヤーで寝癖を整えた後、テレビをつけ、朝の日課であるモーニング・コーヒーを飲みながら春公演のディレクターであるミオさんからの練習開始を知らせるLINEを待った。

テレビには現在、世界的大流行中の新型コロナウイルスについて意見を述べる所謂、コメンテーター達の姿が映し出されていた。

連日の事でうんざりしていた僕は頭が痛くなる感覚を覚え、思わずこめかみを押さえながらテレビの電源を切った。

実はこのウイルス、僕達の練習にも多大な影響を与えているのだ。

具体的には、大学の施設利用が制限されており、練習は会議用のアプリケーションを用いたのものとなっている。

この方式は演技の練習がしにくく僕は苦手である。

恐らく、その他7人のセクションメンバー達も全くの同意見であろう。

 

30分程経っただろうか、ミオさんからLINEが入った。

僕は急いで少し冷めたモーニング・コーヒーを飲み乾すとラップトップ型のパーソナル・コンピュータを立ち上げ、アプリケーションを開いた。

皆の顔がコンピュータ上に表示され始めたが、集合に少し遅れてしまったメンバーの一人、リンコさんは不承不承といった様子であった。

 

この方式での練習の流れは以下の通りで、本日練習を行う全てのシーンの舞台上での入り捌けの確認、続いてシーンに該当する人とミオさんが集まり、彼女による指摘を受けながら各シーンを練習していくというものだ。

シーン練習に該当していないメンバーは各々の練習をしている。

 

入り捌けの説明が終わり、いよいよ僕のシーン練習に入った。

この時、共に練習をしていたぺーさんの電波が悪いのか、声が聞き取りにくくなっていた。

彼もその事について詫びを入れていたが、こういった意味でも、この方式の練習は苦手だと僕は感じている。

僕の役は高い声が良く似合う役のため、声の低い僕にとってはなかなか難しい。

案の定、ミオさんにその点を見抜かれ、指摘された。

彼女のその目には鋭い光のようなものが宿っているようにおもわれた。

 

今日の練習終わり、ミオさんにより全体連絡の時間を取るためLINEのグループ電話が開始された。

主に今後の練習場所についての連絡であったが、僕を含めた一年生のメンバーに対しては二年生のメンバーからコロナウイルスが怖いと思う人は無理に参加しなくていいとの旨を連絡された。

僕はこのメンバーに対して底知れぬ温もりを覚え、思わず頬を緩めながら感謝の言葉を述べた。

やがて連絡が一通り終わり、皆が今日の練習終了の合言葉を述べる。

無論、僕もこの温かいメンバー達にいつもよりも多くの感謝の気持ちを乗せて合言葉を述べた。

 

「散で!」

 

 

ムーミン